経理マンにとっては常識だけど、意外とそれは経理だけで、周りからしたら常識ではない、というパターンがあります(できるだけそうならないように気を付けています)。
今回はその1つをご紹介します。
~売上っていつ計上するのだろう~
早速ですが、以下4つの時点のうち、どの時点で売上を認識することが適切でしょうか?
- 注文を受けた、予約を受けた時点
- サービスを提供した、モノを販売した(引き渡した)時点
- 取引先へ請求書を送付した時点
- 入金した時点
正解は「サービスを提供した、モノを販売した(引き渡した)時点」です。
昔、新入社員たち(15人ほど)に話す機会があり聞いたところ、バラバラな回答でしたので、経理の常識なんだな、と感じたところです。
なお、上場企業などの大企業には、もっと細かいルールがあり、取引によってケースバイケースなこともありますので、今回はそこではなく基本的なところを解説します。
☆この記事で得られること
- 売上を計上するタイミングがわかる
- 本来の時点で処理しない場合、回収管理が煩雑になることがわかる
売上を計上するタイミング
上述の新入社員たちの回答は、「取引先へ請求書を送付した時点」が多かったです。半分以上を占めていた気がします。
考えてみたら、請求書を送付したら、自分が相手へ「払ってください」と宣言しているようなものです(当然と言えばそうなのですが)。
このときに売上を計上するという考えは理解できます。
しかし、実際は「サービスを提供した、モノを販売した(引き渡した)時点」となります。
サービスやモノを相手へ提供したら、その代金を請求する権利が生まれます。この権利が生まれたタイミングで、売上を計上します。
例えば、1月に商品を100円で販売して、2月に100円を回収するパターンだと、以下の仕訳となります。
月 | 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
1月 | 売掛金 | 100 | 売上 | 100 |
2月 | 現金 | 100 | 売掛金 | 100 |
これは1月に商品を販売した際に、代金を請求する権利が生まれていますので、同月に売上を計上します。販売しても請求する権利が発生しないパターンはレアケースと想定されますので、ここでは除いています。
一方で、1月に商品を100円で販売して、同月に100円を回収するといった、現金販売のパターンだと以下の仕訳となります。
月 | 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
1月 | 現金 | 100 | 売上 | 100 |
⇩
これを2行の仕訳に分解してみます。
・1月に商品を販売して、請求する権利が生まれた。
・同時に現金を受領した。
月 | 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
1月 | 100 | 売上 | 100 | |
1月 | 現金 | 100 | 100 |
回収のタイミングにより、借方を「売掛金」にするか「現金」とするかだけの違いです。
結局は1月に売上を計上することには変わりません。
入金時計上のメリットとデメリット
事業規模が大きくなってくると記帳もしっかりしてきますが、個人や中小企業の場合、期中は入金日で売上を計上し、期末だけ売掛金を計上して、1年間の最後に辻褄を合わせるパターンがあります。
この運用によるメリット、デメリットを考えていきます。
■メリット
- 処理の手間が減る。
入金日ベースの処理のため、通帳を見ながら売上を計上するだけです。
とても楽な処理で、先ほどの「1月に商品を100円で販売して、2月に100円を回収する」パターンだと、以下の仕訳イメージとなります。
月 | 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
2月 | 現金 | 100 | 売上 | 100 |
■デメリット
- 請求額と入金額の照合ができない。
入金額は、実際の請求額通りでしょうか?
もしかしたら過不足があるかもしれません。請求が110円なのに入金が100円となっていて、10円足りないかもしれません。
照合するにしても、帳簿とは別のところで管理する必要があります。 - 回収漏れを把握できないリスクがある。
入金日で仕訳を計上する=入金がないと仕訳を計上しない、となります。
これも別のところで管理する必要がありますが、そうでないといつまで経っても請求したものが放置された状態になってしまいます。 - 過去を振り返るときに困る。
仮に1年後にこの処理を見返す場合、1月販売分が、半年ほど経った7月に入金され、7月に売上計上していたら、見返しているご自身はどう思うでしょうか。
「この売上なに?」と思うのではないでしょうか。
さらに深堀すると、「この売上は1月分なのに、なぜ半年も空いている?」と思うかもしれません。そしてその原因を調べることに時間がかかるかもしれません。もしかしたら他の売上は入金されていないかもしれません。
回収管理に役立つ
販売時や入金日ベースいずれにしても、回収管理をするなら、相手先ごと・月ごとの請求額、回収予定日で管理することをおススメします。
取引先が多い場合、入金日ベースで処理しようにも、この入金はいつの請求分?となってしまうので、結局請求日に遡ることが多いです。
費用対効果の面も考える必要がありますが、売上は、モノを販売した時に計上することをおススメします。
(規模によっては期中は入金日ベースで…とお話しする場合もあり得ます)
今回は売上を計上するタイミングについて、解説しました。
帳簿に焦点をあててしまうとモチベーションは上がりにくいかもしれません。
しかし、請求したものがしっかり回収されているかという観点からすれば、売上を計上するタイミングは非常に重要です。
ご自身の会社の実態に合わせて、売上を計上するタイミングや、請求内容の管理方法を検討されてみてはいかがでしょうか。
ときに専門家に相談されてみることも良いと思います。
井上会計事務所